スーパーや鮮魚コーナーで「ワタリガニ」と書かれたカニを手に取ったとき、別の店では同じようなカニが「ガザミ」と表示されていて、頭にハテナが浮かんだことはありませんか。さらに居酒屋のお品書きでは「渡り蟹のパスタ」、産直サイトでは「ドウマンガニ」——呼び名がバラバラで、いったい何が本当の名前なのか分かりにくいですよね。
結論から言うと、ワタリガニというのは商品名・通称で、本名(標準和名)は「ガザミ」です。そしてワタリガニと呼ばれるカニは1種類ではなく、地域や種類によってヒシガニ・ドウマンガニ・エガニなど、たくさんの別名で呼ばれています。呼び名の多さは、それだけこのカニが日本各地で身近に食べられてきた証でもあります。
この記事では、ワタリガニの正体であるガザミの本名と別名、「渡り蟹」と呼ばれる理由、地域ごとの呼び名、そして同じくワタリガニと呼ばれる仲間のカニ(タイワンガザミ・ジャノメガザミ・ノコギリガザミなど)まで、水産物の図鑑情報をもとに丸ごと整理しました。読み終わるころには、どんな表示で売られていても「これはあのカニだ」と見分けられるようになります。
・ワタリガニの本名は「ガザミ」、別名・地方名は全部で何種類あるのか
・「渡り蟹」という名前が後ろ足から付いた理由
・タイワンガザミ・ジャノメガザミ・ノコギリガザミなど仲間のカニの見分け方
・旬(オスとメスで違う)・栄養・産地と、選び方のコツ
ワタリガニの別名はガザミ|どっちが本当の名前?

最初にいちばん大事なところをはっきりさせておきます。「ワタリガニ」と「ガザミ」は同じカニで、どちらも間違いではありません。違いは、どちらが正式名称なのかという一点だけです。
ワタリガニとガザミは同じカニ|本名はガザミ
結論として、標準和名(生物として正式に決められた名前)は「ガザミ」で、ワタリガニはその通称・流通名です。ガザミは節足動物のエビ目(十脚目)ワタリガニ科ガザミ属に分類されるカニで、漢字では「蝤蛑」と書きます。なぜ通称のほうが有名かというと、ワタリガニという響きのほうが特徴を表していて覚えやすく、市場や飲食店で広く使われてきたからです。スーパーで「ワタリガニ」、図鑑や漁協の資料で「ガザミ」と表記が分かれるのはこのためで、指しているカニは同じものです。迷ったら「ワタリガニ=ガザミが本名」と覚えておけば、どちらの表示でも戸惑いません。
標準和名「ガザミ」の語源は“蟹のはさみ”
ガザミという少し不思議な響きの名前は、「蟹のはさみ」を意味する古語「カサメ」が変化したものとされています。理由はシンプルで、ガザミの最大の武器が鋭く力強いハサミだからです。実際にガザミのハサミは見た目以上に強く、生きた個体を扱うときに指を挟まれると流血することもあるほどで、漁師さんも素手では持ちません。台所で生きたワタリガニを扱う場面では、ハサミの可動域の外側(甲羅の後ろ)を持つのが安全です。名前の由来がそのまま「危ないから気をつけて」という注意書きになっている、覚えやすい例と言えます。
泳ぐカニだから「渡り蟹」|通称の成り立ち
ワタリガニという通称は、このカニが「泳ぐ」ことに由来します。カニといえば横歩きでノソノソ動くイメージですが、ガザミは一番後ろの脚(第5脚)が平たいオール(櫂)のような形をしていて、これを動かして水中をスイスイ泳ぎます。泳いで「渡る」ように移動するから渡り蟹、というわけです。具体例として、ガザミは季節ごとに浅場と深場を行き来する回遊性を持っており、この移動する習性も「渡り」という言葉につながったと考えられています。ハサミの形(ガザミ)と泳ぐ脚の形(ワタリガニ)、体の別々のパーツがそれぞれ名前の由来になっているのが面白いところです。
| 分類 | 十脚目ワタリガニ科ガザミ属(学名 Portunus trituberculatus) |
| 本名・別名 | 標準和名ガザミ/通称ワタリガニ/漢字「蝤蛑」 |
| 大きさ | 甲幅15cm超・甲長6cm前後 |
| 生息域 | 北海道南部〜九州、韓国・中国・台湾/水深5〜30mの内湾 |
| 旬 | 晩秋〜春(オスは5〜11月、メスは11〜4月) |
| おすすめ調理法 | 味噌汁・蒸し・トマトパスタ・茹で |
「渡り蟹」と呼ばれる理由は後ろ足にあった
ワタリガニという通称をもう少し深掘りすると、その鍵は後ろ足の形と暮らし方にあります。なぜ泳げるのか、どう動くのかを知ると、売り場で生きた個体を見たときの観察がぐっと楽しくなります。
後ろ足がオール状|だから水中を泳げる
ガザミが泳げる理由は、一番後ろの脚の先が平たく変形しているからです。多くのカニの脚はとがった棒状ですが、ガザミの第5脚は木の葉のように平たく広がっていて、これを左右に動かすことで水をかき、水中を移動できます。見分けるポイントとして、生きたワタリガニや活けの個体を見るときは、後ろ足の先端が「ヘラのように平たいか」をチェックしてみてください。この平たい脚があるカニは、ワタリガニ科の仲間である目印になります。逆に、後ろ足までとがっているカニ(モクズガニやサワガニなど)はワタリガニ科ではなく、泳ぎは得意ではありません。
季節で移動する回遊性も名前の由来
「渡り」という言葉には、泳ぐことに加えて「季節ごとに広い範囲を移動する」という意味も込められています。ガザミは水深5〜30メートルほどの内湾を好みますが、一年じゅう同じ場所にいるわけではありません。秋に交尾を終えると深場へ移動し、暖かくなると再び浅場へ戻ってくる——こうした回遊の習性が、渡り鳥のように「渡る蟹」という呼び名につながったとされています。産地の漁では、この移動のタイミングに合わせてカニ網(底刺し網)を仕掛けます。旬の時期に味が乗るのも、深場で身を締める季節と重なるからだと考えると納得しやすいですね。
「カゼガニ」「オドリガニ」という動きを表す別名も
泳ぐ・動くという特徴は、地方名にもそのまま表れています。ガザミには「カゼガニ」「オドリガニ」という別名があり、これは活発に動き回る様子や、海中で踊るように泳ぐ姿を表したものと考えられます。具体例として、活けのワタリガニを水槽で見ると、底でじっとしているだけでなく、ときどき脚を広げてふわりと泳ぐ動きを見せます。この姿を見れば「オドリガニ」という呼び名にも素直にうなずけるはずです。豆知識として、同じカニでも地域の人が何に注目したかで名前が変わるのが日本の魚介の面白さで、ワタリガニはその代表格と言えます。
甲殻類の生態をもっと知りたい方は、同じく泳ぎ・移動と無縁ではない高級甲殻類の生き方も参考になります。

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地域で変わるワタリガニの別名5つ

ワタリガニ=ガザミには、全国共通の「ワタリガニ」以外にも、地域ごとに根づいた呼び名がいくつもあります。旅先の市場やお取り寄せで知らない名前に出会っても、ここを押さえておけば「ああ、あのカニか」と分かります。
ヒシガニ(菱蟹)|甲羅の形が由来
ガザミの代表的な別名のひとつが「ヒシガニ(菱蟹)」です。これは甲羅の形に由来します。ガザミの甲羅は左右の端がとがって横長にひし形(菱形)に張り出しており、その形を「菱(ひし)」に見立てたものです。見分け方として、ワタリガニの甲羅を上から見ると、左右の角が鋭くとがって横に広がっているのが分かります。この横長のシルエットは、丸っこい毛ガニや縦長のタラバガニとはっきり違うので、形だけでもワタリガニ科だと見当がつきます。豆知識ですが、地域によっては今でも「ヒシガニ」の呼び名が市場で使われており、ワタリガニと別物だと勘違いしないよう知っておくと安心です。
オキガセ(長崎)・ガンチン(徳島)|土地ごとの呼び名
地方名はさらに細かく分かれます。ガザミは長崎県で「オキガセ」、徳島県で「ガンチン」と呼ばれるなど、土地ごとに独自の呼び名があります。理由は、それぞれの漁師町で昔から使われてきた言葉が今も生きているからです。具体例として、産直サイトや道の駅でこうした聞き慣れない名前を見かけたら、ワタリガニ科のガザミ類である可能性が高いと考えてよいでしょう。注意点として、地方名は同じ言葉が別の魚介を指すこともあるため、不安なときは甲羅の形(横長の菱形)と後ろ足(平たいオール状)の2点で確かめると確実です。呼び名は土地の文化、姿かたちは万国共通の判断材料、という使い分けが役に立ちます。
漢字は「蝤蛑」|読めたら自慢できる難読蟹
ガザミの漢字表記「蝤蛑」は、まず読めない難読漢字の代表格です。読み方はそのまま「がざみ」で、虫へん(むしへん)に複雑なつくりが組み合わさっています。理由として、カニやエビなど甲殻類の漢字には虫へんが使われることが多く(蟹・蝦など)、蝤蛑もその仲間です。具体例として、寿司屋や料亭のお品書き、古い料理書などで見かけることがあり、読めると少し誇らしい気持ちになれます。豆知識として、別名のワタリガニは「渡り蟹」と書き、こちらはひと目で意味が分かるやさしい表記です。同じカニに難読の本名表記とわかりやすい別名表記の両方があるのも、このカニならではの面白さです。
スーパーで「ワタリガニ」と売られる仲間は1種じゃない
ややこしいのはここからです。「ワタリガニ」として売られているカニは、本家ガザミだけではありません。よく似た近縁種も同じ「ワタリガニ」の名で流通します。見分けられると、買い物の精度がぐっと上がります。
タイワンガザミ|ハサミのトゲと色で見分ける
ガザミと最も間違えやすいのが「タイワンガザミ」(学名 Portunus pelagicus)です。同じガザミ属で姿がそっくりですが、見分けるポイントが2つあります。1つ目はハサミの付け根(鋏脚長節)のトゲの数で、ガザミは4本、タイワンガザミは3本です。2つ目はハサミの動かない指(不動指)の色で、ガザミは白、タイワンガザミは赤みを帯びます。オスのタイワンガザミは暗緑色の甲羅に白い不規則な模様が出るのも目印です。注意点として、タイワンガザミはガザミより南寄り・暖流の影響が強い海域に多く、どちらも「ワタリガニ」として売られます。味に大きな優劣はないので、見分けは「知る楽しみ」として覚えておくとよいでしょう。
ジャノメガザミ|甲羅の3つの“蛇の目”が目印
もう一種、覚えておきたいのが「ジャノメガザミ」です。甲幅15cmほどでガザミに似ていますが、甲羅に白いフチ取りのある暗紅色の丸い模様が3つくっきり並ぶのが最大の特徴で、これを「蛇の目(じゃのめ)」に見立てたのが名前の由来です。見分け方は簡単で、この3つの目玉模様があれば一発でジャノメガザミと分かります。具体的な扱いとして、ジャノメガザミはガザミ類の中型種で、中部日本以西では一般的な食用ガニですが、ガザミより安価で庶民的です。冷凍輸入品も多く、格安のカニ汁(味噌汁)や中華食材として使われます。お得にカニの出汁を楽しみたいときの選択肢として知っておくと便利です。
【失敗パターン①】模様を見ずに値段だけで選んで損する
ありがちな失敗が、「ワタリガニ」の表示と値段だけ見て選び、甲羅の模様を確認しないことです。原因は、どれも同じ「ワタリガニ」名で並ぶため、種類による値段差に気づきにくいことにあります。対策はシンプルで、甲羅の模様をひと目チェックすること。3つの蛇の目模様があれば庶民的なジャノメガザミ、模様がなく白っぽい不動指ならガザミ本家、という具合に、模様と色で見当をつけられます。だしを取る味噌汁ならジャノメガザミでも十分おいしく、姿の美しさや内子(卵巣)を楽しみたいならガザミ、と目的に合わせて選べば、同じ「ワタリガニ」でも満足度が変わります。値段の安い・高いには種類の違いという理由があると知っておくのが、賢い買い物の第一歩です。
| 比較項目 | ガザミ(本家) | タイワンガザミ | ジャノメガザミ |
|---|---|---|---|
| 学名 | P. trituberculatus | P. pelagicus | ガザミ属 |
| ハサミ付け根のトゲ | 4本 | 3本 | ― |
| 甲羅の目印 | 不動指が白い | 不動指が赤い・白斑模様 | 蛇の目模様3つ |
| 価格帯の傾向 | 高め | 中〜高 | 安め・庶民的 |
※さかなのさ調べ(各図鑑・水産資料をもとに作成)。価格帯は時期・産地で変動します。
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高級ワタリガニ「ノコギリガザミ」の別名がすごい
ワタリガニの仲間には、ガザミとは別格の大きさと値段を誇る高級ガニもいます。それが「ノコギリガザミ」で、このカニこそ別名のバリエーションが日本一と言ってよいほど豊富です。
ドウマンガニ・エガニ・ガサミ|地域で激変する呼び名
ノコギリガザミは、地域ごとの呼び名がとにかく多いカニです。静岡県では「ドウマンガニ(胴満蟹)」、高知県では「エガニ」、沖縄県では「ガサミ」、ほかに「シナガニ」「甲丸」など、土地が変わるたびに名前が変わります。理由は、各地で個別に獲れて珍重されてきたため、それぞれの方言が定着したからです。具体例として、産直サイトでは「ドウマンガニ」「エガニ」の名で1kg級の大物が高値で売られています。注意点として、これらは別々のカニのように見えて、すべてワタリガニ科ノコギリガザミ属の仲間を指します。聞き慣れない名前でも「ワタリガニの高級版」と覚えておけば、お取り寄せで戸惑うことはありません。
日本にいるのは3種|アミメ・トゲ・アカテ
ノコギリガザミは一種類ではなく、日本にはアミメノコギリガザミ(Scylla serrata)、トゲノコギリガザミ(Scylla paramamosain)、アカテノコギリガザミ(Scylla olivacea)の3種が生息しています。違いは甲羅やハサミの形・色にあり、アミメは甲に網目模様、アカテはハサミが赤みを帯びるなどの特徴があります。具体例として、市場や飲食店ではこれらをまとめて「ドウマンガニ」「ノコギリガザミ」と呼ぶことが多く、種を厳密に区別して売られる場面は多くありません。豆知識として、ノコギリガザミの名は甲羅のフチがノコギリのようにギザギザしていることに由来します。大きく力の強いハサミを持つため、活けの個体を扱う際は専門の取り扱いが必要で、家庭で生きたものを扱う機会はそう多くありません。
英名はマッドクラブ|マングローブに棲む大型ガニ
ノコギリガザミは、英語で「マッドクラブ(mud crab)」「マングローブクラブ(mangrove crab)」と呼ばれます。これは、東南アジアなどの河口部やマングローブ林の泥地に棲むことに由来します。中華圏や東南アジアでは非常に重要な食用種で、シンガポール料理の「チリクラブ」に使われるカニとしても知られています。具体例として、日本でも南西諸島や本州の一部で獲れ、濃厚なカニ味噌と太い脚の身が高級食材として珍重されます。逆張りの視点を一つ挙げると、「ワタリガニ=安い庶民的なカニ」というイメージを持つ人もいますが、同じワタリガニ科でもノコギリガザミのように伊勢海老に匹敵する高値で取引される種もいて、ひとくくりにはできないのが面白いところです。
同じく高値で取引される甲殻類の相場が気になる方は、こちらも参考になります。

スーパーや鮮魚店ではめったに見かけないのに、ネット通販や高級料理店では「伊勢海老より美味しい」とまで言われるセミエビ。いざ買おうとして値段を調べてみると、想像を…
標準的な総称「ノコギリガザミ」/静岡「ドウマンガニ・シナガニ」/高知「エガニ」/沖縄「ガサミ」/英名「マッドクラブ・マングローブクラブ」。日本に棲むのはアミメ・トゲ・アカテの3種で、いずれもワタリガニ科の大型高級ガニです。
旬と栄養で見るワタリガニの選び方
別名と仲間が分かったら、次はおいしく食べるための実用情報です。ワタリガニは旬の見極めがオスとメスで違うという、ほかの魚介にはない特徴があります。ここを知るだけで満足度が大きく変わります。
旬はオスとメスで違う|年に2回楽しめる
ワタリガニ(ガザミ)の旬は、オスとメスで時期が分かれます。一般に、身が詰まって甘みの増すオスは5〜11月ごろ、卵巣(内子)が満ちて濃厚になるメスは11〜4月ごろが食べごろとされます。つまり、買い分ければ年に2回も旬を楽しめるカニなのです。理由は、産卵に向けてメスが冬から春に内子を蓄えるためで、この時期のメスは甲羅を開けると橙色の内子がぎっしり詰まっています。選び方として、内子を楽しみたいなら冬〜春のメス、身そのものの甘さを味わいたいなら夏〜秋のオス、と目的で時期を選ぶのがおすすめです。雌雄は腹側の「ふんどし(腹節)」の形で見分けられ、幅広い三角がメス、細い三角がオスです。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | ◎ |
◎=最旬(夏はオスの身、冬はメスの内子) ○=美味しい ※産地で前後します
栄養は高たんぱく・低脂質|ビタミンB12と銅が豊富
ワタリガニは、低脂質で高たんぱくな食材です。可食部100gあたりおよそ65kcalで、たんぱく質14.4g、脂質はわずか0.3g、炭水化物0.3gと、脂質をおさえながらたんぱく質を摂れるのが特徴です。さらにビタミンB12が4.7μg、銅が1.10mg(いずれも100gあたり)と、不足しがちな微量栄養素も含みます。具体例として、味噌汁にすればカニから出る出汁ごと栄養を逃さずいただけます。注意点として、これらの数値は食品成分の標準値であり、個体や時期によって差があります。詳しい栄養成分は文部科学省の食品成分データベースで確認できますので、厳密な数値が必要なときは一次情報をあたるのが確実です。
主な産地は愛知・福岡・愛媛|内湾の恵み
ワタリガニの主な産地は、漁獲量の多い順に愛知県・福岡県・愛媛県などが知られています。理由は、ガザミが水深5〜30メートルほどの穏やかな内湾を好むためで、伊勢湾・三河湾・有明海・瀬戸内海といった大きな内湾を抱える地域で多く水揚げされます。具体例として、これらの産地では地元のカニとして味噌汁や蒸し物で親しまれています。豆知識として、ガザミは北海道南部から九州まで広く分布しますが、漁獲は関東以南が中心です。選び方の観点では、産地表示のある活けや活〆のものは鮮度が高い傾向があり、ずっしり重く、足がそろっている個体を選ぶと身入りが期待できます。地域ごとの旬や漁の情報は、各地の漁協や県の水産情報サイトでも確認できます。
ワタリガニを食べる前に知っておきたい注意点
最後に、ワタリガニをおいしく安全に楽しむための実用的な注意点をまとめます。下処理のコツと鮮度管理を押さえておけば、家庭でも失敗なくこのカニを味わえます。
【失敗パターン②】下処理で甲羅を外す向きを間違える
ワタリガニの下処理でよくある失敗が、甲羅を外すときに向きを間違えてカニ味噌をこぼしてしまうことです。原因は、甲羅とふんどし(腹側の三角の部分)の外し方を知らずに力任せにこじ開けてしまうことにあります。対策として、まず腹側のふんどしを起こして外し、次に脚のついた本体を片手で持ち、甲羅を背中側からゆっくり起こすように外すと、味噌が甲羅側に残ってこぼれにくくなります。生きた個体はハサミが危ないので、扱う前に氷水でおとなしくさせてから作業すると安全です。豆知識として、外した甲羅に残ったカニ味噌は、そのまま殻ごと焼いたり味噌汁に入れたりすると無駄なく楽しめます。手順を一つ知っているだけで、仕上がりの満足度が変わります。
カニなどの甲殻類は鮮度が落ちると風味が損なわれやすいため、生きたもの・活〆のものはできるだけ早く加熱調理しましょう。常温での長時間放置は避け、購入後は冷蔵で保存します。体調がすぐれないときや、食べたあとに異常を感じた場合は、無理をせず医療機関を受診してください。
調理法は味噌汁・蒸し・パスタ|用途で使い分け
ワタリガニは、調理法によって違った魅力が楽しめるカニです。結論として、出汁の良さを活かすなら味噌汁、身と味噌をシンプルに味わうなら蒸し、濃厚なうまみをソースにするならトマトパスタ、と用途で使い分けるのがおすすめです。理由は、ワタリガニは身よりも殻や味噌から出る出汁の風味が際立つカニだからです。具体例として、ぶつ切りにして味噌汁にすると、上品なカニの香りが汁全体に広がります。状況別に言えば、安価なジャノメガザミは出汁取り中心の味噌汁やカニ汁向き、姿のよいガザミは蒸しや姿盛り向き、と種類によって得意な料理を選ぶとよいでしょう。注意点として、加熱しすぎると身がパサつくため、蒸し・茹では火が通ったらすぐ止めるのがコツです。
内子と外子は別物|メス選びの豆知識
メスのワタリガニを選ぶときに知っておきたいのが、「内子」と「外子」の違いです。内子は甲羅の中にある成熟前の卵巣で、橙色をしておりねっとり濃厚、ワタリガニのメスの最大のごちそうです。一方、外子は腹のふんどしの内側に抱えた産卵後の卵のかたまりを指します。見分け方として、ふんどしの内側に黒っぽいツブツブを抱えている個体は外子を持つ抱卵中のメスです。注意点として、抱卵期のメスは資源保護のため漁獲が制限されている地域もあり、市場に並ぶことは多くありません。内子を狙うなら、産卵前の冬〜春の時期に、甲羅を持ってずっしりと重みのあるメスを選ぶのが、おいしさへの近道です。
まとめ|ワタリガニの別名はガザミが本名、仲間まで覚えれば一生モノ
ワタリガニという呼び名は通称で、本名(標準和名)は「ガザミ」です。後ろ足が平たいオール状で泳ぎ、季節ごとに回遊する習性から「渡り蟹」と呼ばれるようになり、甲羅の菱形から「ヒシガニ」、動きから「カゼガニ・オドリガニ」など、地域ごとに多彩な別名で親しまれてきました。さらに、同じ「ワタリガニ」の名で売られる仲間にはタイワンガザミ・ジャノメガザミがあり、別格の高級ガニであるノコギリガザミ(ドウマンガニ・エガニ・ガサミ)まで含めると、その呼び名の豊かさはカニの中でも随一です。
呼び名は土地の文化、見分けは甲羅の模様と後ろ足の形——この2つを軸にすれば、どんな表示で並んでいても迷いません。要点を振り返っておきましょう。
- ワタリガニの本名は「ガザミ」、漢字は「蝤蛑」。語源は“蟹のはさみ”
- 「渡り蟹」の由来は、平たい後ろ足で泳ぐ+季節ごとに回遊する習性
- 地方名はヒシガニ・オキガセ(長崎)・ガンチン(徳島)・カゼガニ・オドリガニなど
- そっくりさんはタイワンガザミ(ハサミのトゲ3本・不動指が赤)とジャノメガザミ(蛇の目模様3つ)
- 高級版ノコギリガザミはドウマンガニ・エガニ・ガサミ・マッドクラブとも呼ばれ、日本に3種
- 旬はオスが5〜11月、メス(内子)が11〜4月。低脂質・高たんぱくでビタミンB12と銅が豊富
- 主産地は愛知・福岡・愛媛などの大きな内湾
まずは次にスーパーや産直サイトでワタリガニを見かけたら、甲羅をよく観察してみてください。横長の菱形か、蛇の目模様はあるか、ハサミの不動指は白か赤か——この記事のポイントで見比べれば、「これはガザミ本家だ」「これはお得なジャノメガザミだ」と自分で見分けられるはずです。呼び名の知識は、買い物を一段楽しくしてくれます。
※旬の時期や栄養成分は産地・個体・時期によって変動します。最新の情報は文部科学省の食品成分データベースや各地の漁協・水産情報サイトでご確認ください。

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