スーパーで魚を選ぶとき、「えらの色を見るといい」と聞いたことはありませんか。でも、なぜえらを見れば鮮度がわかるのか、そもそもえらは何をしている器官なのか、きちんと説明できる人は意外と少ないものです。赤くてヒラヒラした、あのちょっと不気味な部分。実はあそこに、魚が水の中で生きるための秘密がぎゅっと詰まっています。
結論から言うと、魚のえらは「呼吸」だけの器官ではありません。水中の酸素を取り込むのはもちろん、体の塩分バランスを保ち、老廃物を捨てる役割まで、たった一つの器官で同時にこなしています。人間でいえば肺と腎臓の仕事を兼ねているようなもの。だからこそ、えらの状態は魚の生死や鮮度をいちばん正直に映し出すのです。
この記事では、えらの3つの役割から、鰓蓋(えらぶた)・鰓弁(さいべん)といった細かい構造、水中で酸素を取り込める「対向流」のしくみ、海水魚と淡水魚で働きが逆転する不思議、そしてスーパーでの鮮度の見分け方とさばくときのえらの取り方まで、魚好きの友人が台所で教えてくれる感覚で丸ごと解説します。読み終わるころには、魚売り場でえらを覗き込むのが楽しくなっているはずです。
・魚のえらが果たす3つの役割(呼吸・浸透圧調節・アンモニア排出)
・鰓蓋・鰓弓・鰓弁・鰓耙という4つのパーツの構造と働き
・えらの色で鮮度を見分ける具体的な目安と注意点
・さばくときに臭みを断つ、えらの正しい取り方の手順
魚のえらは呼吸だけじゃない|まず知りたい3つの役割
えらと聞くと「水中で呼吸するための器官」というイメージが真っ先に浮かびます。それは正解ですが、半分だけの正解です。魚のえらは、酸素を取り込むガス交換に加えて、体の塩分濃度を調整する浸透圧調節、そして老廃物であるアンモニアを捨てる排出機能という、3つの仕事を同時に担っています。まずはこの全体像を押さえておくと、後の話がぐっとわかりやすくなります。
水中の酸素を血液に取り込む「ガス交換」
えらの最も基本的な役割が、水に溶けた酸素を体内に取り込み、二酸化炭素を水中へ捨てるガス交換です。魚は口から水を吸い込み、その水をえらに通します。えらの表面には毛細血管がびっしりと走っていて、水が通り抜ける瞬間に酸素が血液へ、二酸化炭素が水へと受け渡されます。人間が肺でやっていることを、魚はえらで水を相手にやっているわけです。
空気中の酸素濃度に比べ、水に溶けている酸素の量はずっと少なく、同じ体積でおよそ30分の1ほどしかありません。それでも魚が酸欠にならずに済むのは、えらが酸素を取り込む効率を極限まで高める構造を持っているからです。その秘密の「対向流」については後の見出しで詳しく見ていきます。
ちなみに、魚が口をパクパクさせているのは餌を探しているからではなく、えらに新しい水を送り続けるためのポンプ運動です。止まると水が流れず酸素を取り込めなくなるため、マグロやカツオのように泳ぎ続けないと呼吸できない魚もいます。
体の塩分を一定に保つ「浸透圧調節」
えらの2つ目の重要な役割が、体の塩分濃度を一定に保つ浸透圧調節です。えらには「塩類細胞(えんるいさいぼう)」と呼ばれる特殊な細胞がたくさんあり、これが体内の塩分を出したり取り込んだりするポンプの役目を果たします。東京大学大気海洋研究所の研究によれば、真骨魚類(一般的な硬骨魚)は体液を海水のおよそ3分の1の塩分濃度に保っているとされています。
海水魚と淡水魚では、この塩類細胞の働き方がまったく逆になります。海水の中では体から水分が奪われ塩分が入り込みやすいため、海水魚は余分な塩をえらから捨てます。一方、淡水魚は逆に塩分が逃げていくため、えらから塩を取り込みます。同じ「えら」という器官が、すむ環境に合わせて正反対の仕事をしているのは驚きです。
この機能があるおかげで、魚は周囲の水の塩分に体を溶かされることなく生きられます。逆に言えば、海水魚を真水に入れたり、淡水魚を海水に入れたりすると、えらの調整能力が追いつかず弱ってしまうのです。
老廃物のアンモニアを水中へ捨てる「排出」
3つ目の役割が、体内で生じた老廃物の排出です。魚はタンパク質を分解するとアンモニアという有害な物質が生まれますが、これをえらから直接水中へ捨てています。人間なら肝臓で毒性の低い尿素に変えて尿で出しますが、多くの魚はその手間をかけず、アンモニアのまま薄い水へ流してしまうのです。
つまり魚のえらは、呼吸(肺)・塩分調整(腎臓の一部)・老廃物排出(腎臓)という、人間なら複数の臓器に分かれている仕事を、一手に引き受けるマルチな器官だということ。だからこそ、えらが傷んだり詰まったりすると魚は一気に弱ります。釣った魚を持ち帰るとき、えらを傷つけないことが鮮度維持のカギになるのも納得です。
えらの構造を分解|鰓蓋・鰓弓・鰓弁・鰓耙の正体
「えら」とひとくくりにしがちですが、中を覗くといくつものパーツが組み合わさった精密な装置です。外側のフタから順に、鰓蓋(さいがい)・鰓弓(さいきゅう)・鰓弁(さいべん)・鰓耙(さいは)という4つの要素を分解して見ていくと、なぜあの形をしているのかが腑に落ちます。
4対のえらを守る「鰓蓋(えらぶた)」
魚の頭の後ろ、エラの外側を覆っている硬い板状の部分が鰓蓋、いわゆる「えらぶた」です。硬骨魚では左右に1対の鰓蓋があり、その内側に片側4対、合計で4対のえらが収まっています。鰓蓋は単なるフタではなく、開閉することで水を吸い込み・吐き出すポンプの弁としても働きます。
魚が口を開けると同時に鰓蓋を閉じ、口を閉じると鰓蓋を開く。この連動運動で、水は必ず口からえらへ、えらから外へと一方通行で流れます。スーパーで魚を選ぶときにえらを確認するのは、この鰓蓋を指で持ち上げて中の色を見る作業です。鮮度を見るうえで最初に触れる部分と言えます。
豆知識として、サメやエイ(軟骨魚)には鰓蓋がなく、体の側面にむき出しの鰓裂(さいれつ)というスリットが5〜7対並んでいます。フタの有無は、硬骨魚と軟骨魚を見分ける大きなポイントの一つです。
赤い本体「鰓弓・一次鰓弁・二次鰓弁」
えらぶたを開けると見える、赤くて櫛(くし)のような部分がえらの本体です。骨組みになっているアーチ状の部分を鰓弓といい、ここから赤い弁状の「一次鰓弁」がたくさん並んで生えています。さらに一次鰓弁の両脇には、無数の細かいヒダ「二次鰓弁」があり、ここが実際にガス交換をおこなう最前線です。
えらが鮮やかな赤に見えるのは、この鰓弁の中に毛細血管がびっしり通っているから。血液中のヘモグロビンが酸素と結びつく場所そのものなので、新鮮な魚ほど血の色が鮮やかに残り、時間が経つと酸化して茶色くくすんでいきます。えらの色が鮮度の目安になる理由は、この血管構造にあります。
餌をこし取る「鰓耙(さいは)」という意外な装備
鰓弁の反対側、口の内側に向いた面には「鰓耙」という櫛状の突起が並んでいます。これは呼吸ではなく、吸い込んだ水の中から餌をこし取るためのフィルターです。プランクトンを主食にするイワシやサバ、ニシンなどでは鰓耙が長く密に発達していて、水だけを通してプランクトンだけを残す網の役割を果たします。
逆に、大きな魚や甲殻類を丸のみにする魚では鰓耙が短く粗くなっています。つまり鰓耙の形を見れば、その魚が何を食べて暮らしているかが推測できるわけです。魚をさばくときにえらの内側を観察すると、この櫛の細かさの違いに気づけて面白いですよ。
魚の皮や内臓と同じく、えらも「ただ捨てる部分」と思われがちですが、構造を知ると魚の暮らしぶりが透けて見えます。鰓耙の細かさを観察すると、その魚がプランクトン食か、それとも大きな獲物を追うタイプかが見えてくるのも楽しいものです。
なぜ水中で酸素を取り込める?えら呼吸の対向流のしくみ
水に溶けた酸素は空気よりもずっと少ないのに、魚はなぜ酸欠にならずに泳げるのでしょうか。その答えが「対向流(向流交換)」という、えらに備わった巧妙なしくみです。ここを理解すると、えらが単なるフィルターではなく、よくできた酸素回収装置だとわかります。
水と血液が逆向きに流れる「対向流」の妙
えらの効率の秘密は、水の流れる向きと血液の流れる向きが正反対になっていることにあります。二次鰓弁では、外を通る水が頭から尾の方向へ、内側の毛細血管を流れる血液が尾から頭の方向へと、すれ違うように流れます。この「逆向き」の配置が、酸素の受け渡し効率を劇的に高めます。
もし水と血液が同じ向きに流れていたら、酸素濃度が途中で釣り合った時点で受け渡しが止まってしまいます。ところが対向流では、血液は常に「自分より酸素の多い水」と隣り合い続けるため、えらの端から端まで酸素を吸い続けられます。この方式のおかげで、魚は水に溶けた酸素の8割前後を回収できるとされています。
この対向流は、熱交換器や省エネ設計のヒントとして工学分野でも応用される、自然界屈指の効率システムです。小さなえらの中に、これほど洗練された物理の工夫が隠れているのは驚きですね。
陸に上げると魚が呼吸できなくなる理由
水揚げされた魚が苦しそうにパクパクするのは、空気中では酸素が足りないからではありません。むしろ空気のほうが酸素は豊富です。問題は、水がないとえらの細かいヒダ同士がくっついて潰れてしまうこと。表面積が一気に減り、ガス交換ができなくなるのです。
えらは水の浮力で広がっていてこそ機能します。陸に上がると二次鰓弁がぺたんと貼りつき、せっかくの広い表面積が使えません。さらに乾燥するとヒダの膜が傷み、水に戻しても元通りには回復しなくなります。これが、魚が陸で長く生きられない最大の理由です。
海で釣った魚を、氷だけが溶けた真水に直接浸けて持ち帰り、身が水っぽくぼやけてしまう——これはよくある失敗です。原因は、海水魚のえらが真水の中では浸透圧の調整が追いつかず、細胞に水が入り込んでしまうため。クーラーボックスでは、海水に氷を入れた「潮氷(しおごおり)」にするか、氷が直接魚に触れないよう袋やタオルで包むのが基本です。
水温が上がると呼吸が苦しくなる理由
水温と魚の呼吸には密接な関係があります。水は温度が上がるほど溶け込める酸素の量が減るため、夏場の水温が高い時期や、海水温の上昇が続く環境では、魚は同じだけ泳いでも酸素を取り込みにくくなります。えらをより速く動かして水をたくさん通そうとするので、エネルギーの消費も増えます。
つまり、暑い季節に魚が水面近くで口をパクパクさせているのは、酸素の薄くなった水の中で必死に呼吸している姿でもあります。水槽で魚を飼うときに夏場のエアレーション(酸素供給)が欠かせないのも、この「水温が上がると酸素が減る」という性質があるからです。えらの働きは、水の環境とつねに背中合わせなのです。
海水魚と淡水魚でえらの働きが逆になる理由
同じ「えら」でも、海でくらす魚と川や湖でくらす魚とでは、果たしている仕事が正反対になります。鍵を握るのは、前にも登場した塩類細胞と浸透圧。ここを押さえると、なぜ海の魚を川に放せないのか、サケがなぜ海と川を行き来できるのかまで見えてきます。
海水魚は「塩を捨て、水を惜しむ」
海水は魚の体液よりも塩分が濃いため、放っておくと体の水分が外へ吸い出され、塩分が入り込んできます。そこで海水魚は、海水をぐびぐび飲んで水分を補い、余分な塩分をえらの塩類細胞から海へ排出します。尿はごく少量・高濃度にして、貴重な水分を逃がさないようにしています。
例えるなら、海水魚は「干からびそうな環境で、塩をせっせと汲み出しながら水を節約している」状態です。スーパーに並ぶアジ・サバ・タイといった海の魚は、みなこの仕組みで体を保っています。えらが弱るとこの塩分管理ができなくなるため、海水魚は鮮度が落ちるのも早めです。
淡水魚は「塩を取り込み、水を捨てる」
淡水魚は逆の悩みを抱えています。まわりの水のほうが体液より塩分が薄いため、体内へどんどん水が入り込み、塩分は逃げていきます。そこで淡水魚はほとんど水を飲まず、入ってきた余分な水を大量の薄い尿として捨て、足りない塩分をえらの塩類細胞から取り込みます。
同じ塩類細胞でも、海水魚では「外へ出す」、淡水魚では「中へ入れる」と真逆に働いているのが面白いところ。コイやフナ、アユといった淡水魚を海水に入れると、この仕組みが対応できずに弱ってしまいます。魚を飼うとき、海水魚と淡水魚を一緒にできないのはこのためです。
| 海水魚(硬骨魚) | 海水を飲み、塩をえらから捨てる。尿は少量・高濃度。体液は海水の約1/3の塩分 |
| 淡水魚(硬骨魚) | 水をほぼ飲まず、塩をえらから取り込む。尿は大量・低濃度 |
| サメ・エイ(軟骨魚) | 体内に尿素をためて海水とほぼ同じ浸透圧を維持し、水の出入りを抑える |
実は、サメは「尿素」でまったく別の作戦を取っている
意外と知られていませんが、サメやエイの仲間(軟骨魚)は、硬骨魚とはまったく違う方法で塩分問題を解決しています。彼らは体内に尿素という物質をためこみ、体液の浸透圧を海水とほぼ同じレベルまで引き上げているのです。こうすると水が出入りする力そのものが釣り合い、塩を必死に汲み出す必要が減ります。
この尿素こそ、サメの切り身が時間とともにアンモニア臭を放ちやすい理由でもあります。尿素が分解されてアンモニアになるため、サメ肉は独特のにおいが出やすいのです。逆にその性質を生かして、フカ(サメ)を湯引きや練り物に加工する食文化も各地に残っています。同じ海に生きる魚でも、えらと浸透圧の戦略がこれほど違うのは、進化の奥深さを感じさせます。
えらを見れば鮮度がわかる|色での見分け方
魚売り場でプロが真っ先にチェックするのが、えらの色です。えらは血液が集まる器官なので、鮮度の低下がもっとも早く、もっとも正直に表れる場所。ここでは農林水産省も挙げる「えらの色」を軸に、スーパーで実践できる見分け方を整理します。
鮮やかな鮮紅色がいちばんのサイン
新鮮な魚のえらは、鮮血のような鮮やかな赤、いわゆる鮮紅色をしています。鰓弁の毛細血管に新しい血液が満ちている証拠で、みずみずしくツヤがあるほど良い状態です。農林水産省の食育資料でも、新鮮な魚を選ぶポイントとして「えらの色が鮮やかなもの」を挙げています。まずはこの「鮮やかな赤」を基準に覚えておきましょう。
魚を手に取れる売り場なら、えらぶたをそっと持ち上げて中を覗きます。きれいな赤が広がっていれば、水揚げから時間が経っていないサインです。パック詰めで持ち上げられない場合は、後述する目や体表のツヤと合わせて判断します。
| えらの色 | 鮮度の状態 | 向く食べ方 |
|---|---|---|
| 鮮やかな鮮紅色・ピンク | 水揚げから間もない | 刺身・なめろう |
| やや暗い赤・赤褐色 | 時間が経過しつつある | 焼き・煮付け |
| 茶色・黒ずみ・乾き | 鮮度がかなり落ちている | 十分加熱して早めに |
※あくまで目安です。色だけでなく目・体表・においも合わせて総合的に判断してください。
茶色くくすんだら鮮度低下のサイン
時間が経った魚のえらは、鮮やかな赤が抜けて暗い赤褐色になり、やがて茶色や黒っぽくくすんでいきます。血液が酸化し、組織が傷み始めた証拠です。さらに進むと表面が乾いてカサついたり、ぬめりが増えて生臭さが立ってきたりします。こうなったものは刺身を避け、しっかり加熱して早めに食べきるのが安心です。
注意したいのは、えらの色は魚の種類や血合いの量によっても見え方が変わること。もともと色の濃い魚もいるので、「少し暗いから即ダメ」と決めつけず、後述の他のポイントと組み合わせて判断するのがコツです。刺身でどのくらい日持ちするかが気になる人は、消費期限の目安をまとめた記事も参考になります。

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えらだけに頼らない|目・体表もセットで確認
えらは強力な手がかりですが、それだけに頼るのは危険です。新鮮な魚は、目が黒く澄んで盛り上がり、体表は本来の色がツヤツヤと鮮やかで、ウロコがしっかり付いています。鮮度が落ちると目は白く濁って落ちくぼみ、体表の色はくすんで白っぽくなり、ぬめりがべたついてきます。
つまり、えら・目・体表・においの4点をセットで見るのが、失敗しない選び方です。例えば「えらは赤いのに目が濁っている」場合は、一度冷凍されたものや扱いに差があった可能性も考えられます。複数のサインを突き合わせることで、見た目に惑わされず確かな鮮度判断ができるようになります。心配な場合は無理をせず、加熱調理を選びましょう。
えらの取り方|下処理で臭みを断つ手順
魚を一尾まるごと買ったら、調理の前にえらを外すのが基本です。えらは血液が詰まった器官で、放っておくと臭みや傷みの最大の発生源になります。ここでは、煮魚や塩焼きをワンランク上に仕上げる、えらの取り方と下処理のコツを順番に見ていきます。
なぜ、さばくとき真っ先にえらを取るのか
結論から言えば、えらには血が多く、臭みの元になる雑菌も繁殖しやすいからです。魚は死ぬと血液から劣化が進み、その血が集中するえらは生臭さの発信源になります。だから、ウロコを取った後すぐ、内臓と一緒にえらを抜くのが下処理の鉄則です。早く取るほど、身に臭みが移るのを防げます。
とくに頭ごと調理するカブト煮やアラ炊き、まるごとの塩焼きでは、えらが残っていると煮汁や身に血の臭みが回ってしまいます。逆にここをていねいに処理しておけば、同じ魚でも仕上がりの澄んだおいしさがまるで変わります。下処理のひと手間が、料理の品を決めると言っても大げさではありません。
えらと一緒に出てくる内臓(わた)にも、食べられる部分と取り除くべき部分があります。内臓の扱いをもっと知りたい人は、こちらの記事もどうぞ。

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包丁での外し方と、ケガを防ぐ注意点
具体的な手順は上のステップの通りですが、コツは「付け根の上下2か所を切ってから引き抜く」こと。えらは背側と腹側の2か所で体につながっているので、ここを刃先で切り離せば、あとは指でつまんで引っ張るだけでスルッと外れます。包丁の先を使い、力任せにこじらないのがきれいに取るポイントです。
注意したいのが、えらのフチや魚のヒレには鋭いトゲがあること。とくにアジのぜいごやカサゴ・メバルのエラ蓋のトゲは指に刺さりやすいので、軍手や厚手のキッチンペーパーで頭を押さえると安全です。えらを取ったあとは、骨の間に残った血合いを歯ブラシや指でかき出すと、臭みがいっそう抜けます。
頭付きの魚をカブト煮にしようとして、えらを抜かずにそのまま煮込み、煮汁全体に血なまぐささが回ってしまう——これは下処理を省いたときの典型的な失敗です。原因は、えらに残った血液が加熱で煮汁に溶け出すこと。対策は、煮る前にえらと血合いを必ず除き、さらに熱湯をさっとかけて霜降りにし、表面の血やぬめりを落としてから煮ること。このひと手間で臭みは大きく減ります。
刺身・煮魚・塩焼き|用途で変わる下処理の深さ
下処理の丁寧さは、最終的な料理によって変えると効率的です。刺身にするなら、えらを抜くだけでなく血合いを徹底的に洗い、水気をしっかり拭き取って臭みの芽を断ちます。生で食べる以上、ここでの手抜きはそのまま味に出ます。逆に水気が残るとぼやけた味になるので、拭き取りが肝心です。
煮付けやアラ炊きでは、えらと血合いを取ったうえで熱湯にくぐらせる「霜降り」が効果的。表面のぬめりと残った血を固めて落とせるので、澄んだ味の煮汁になります。一方、まるごとの塩焼きは比較的シンプルで、えらと内臓を抜いて塩を振れば十分。用途に応じて手間の配分を変えるのが、おいしく作るうえでの賢いやり方です。
えらにまつわる雑学|呼吸器官の意外な顔
最後に、知っているとちょっと自慢できる、えらにまつわる雑学を集めました。エビやカニのえらの話から、魚の部位の呼び名まで、台所や食卓でのちょっとした話題に使えるネタばかりです。
エビ・カニ・貝にもえらがある
えらを持つのは魚だけではありません。エビやカニといった甲殻類も、殻の内側にえらを備えていて、水中の酸素を取り込んでいます。カニを食べるときに「食べてはいけない」と言われるグレーのヒダ状の部分、いわゆる「ガニ」は、まさにこのえらです。汚れや雑菌が溜まりやすいため、食用には向かないとされています。
アサリやハマグリなどの二枚貝にもえらがあり、水を吸い込んでプランクトンを濾しとりながら呼吸しています。貝の砂抜きで吐き出される水は、このえらの働きによるもの。水中で生きる生き物の多くが、形は違えどえらという共通の仕組みで酸素を得ているのは、改めて考えると不思議ですね。
えらの近くにある人気部位「かま」と「ほほ肉」
えらのすぐ後ろ、胸びれの付け根あたりには「かま」と呼ばれる、よく動いて脂がのった人気の部位があります。ブリかまの塩焼きが好物という人も多いはず。えらを外すときに頭まわりをさばくと、このかまや、目の下のぷっくりした「ほほ肉」といった希少部位にも出会えます。
えらを取る作業は、こうした魚の頭まわりの構造を知る入り口でもあります。1尾からわずかしか取れない「かま」の魅力を詳しく知りたい人は、こちらの記事もおすすめです。

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「えら」の語源と、ことわざに残る存在感
「えら」という言葉は、人の顔の下あごの張った部分を「エラが張る」と表現するように、日常語にも溶け込んでいます。これは魚のえらぶたの位置と、人の下あご横の張り出しが似ていることから来た見立てだとされています。魚の体の一部が、人の顔つきを表す言葉になっているのは面白いところです。
・甲殻類や二枚貝にもえらがあり、カニの「ガニ」はえらそのもの
・えらの近くには「かま」「ほほ肉」といった希少部位が隠れている
・「エラが張る」という表現は、魚のえらぶたの位置に由来するとされる
えらは魚の「健康診断書」
ここまで見てきたように、えらは呼吸・塩分調整・老廃物排出という生命線を一手に担う器官です。だからこそ、えらの色やみずみずしさは、その魚がどんな状態にあるかをいちばん正直に語ってくれます。水族館でも、魚の体調管理ではえらの色や動きが大切な観察ポイントになっています。
スーパーで魚を選ぶときも、釣った魚を締めるときも、まずえらに目を向ける。それだけで、魚という生き物の見え方がぐっと立体的になります。次に魚を手にしたら、ぜひえらをそっと覗いてみてください。あの赤いヒダの一つひとつに、水中で生き抜くための知恵が詰まっています。
まとめ|えらを知ると魚の見方が変わる
魚のえらは、ただ呼吸するためだけの器官ではありませんでした。水中の酸素を取り込むガス交換に加え、体の塩分を一定に保つ浸透圧調節、そして老廃物のアンモニアを捨てる排出機能まで、たった一つの器官で同時にこなす、まさに魚の生命線です。人間なら肺と腎臓に分かれている仕事を一手に引き受けているからこそ、えらの状態は魚の生死や鮮度をいちばん正直に映し出します。
構造を分解すると、鰓蓋というフタの内側に、赤い鰓弁が並び、餌をこし取る鰓耙まで備わった精密な装置でした。水と血液を逆向きに流す「対向流」のしくみで酸素を効率よく集め、海水魚と淡水魚では塩類細胞が正反対に働く。えらを知ることは、魚がどう生きているかを知ることそのものなのです。
そして、その知識はそのまま台所で役立ちます。えらの色を見れば鮮度がわかり、さばくときに真っ先にえらを抜けば臭みを断てる。生き物としての魚と、食材としての魚が、えらという一点でつながっています。
- えらの役割は「呼吸」「浸透圧調節」「アンモニア排出」の3つ
- 赤いのは鰓弁に毛細血管が密集しているため。鮮度低下で茶色くくすむ
- 水と血液を逆向きに流す「対向流」で酸素を効率よく回収している
- 海水魚は塩を捨て、淡水魚は塩を取り込む。同じえらでも働きは逆
- 新鮮な魚のえらは鮮やかな鮮紅色。目・体表・においもセットで確認
- さばくときは真っ先にえらを抜き、血合いを洗うのが臭み対策の基本
- カニの「ガニ」もえら。甲殻類や貝にもえらがある
まずは次にスーパーで魚を買うとき、えらぶたをそっと持ち上げて中の色を覗いてみてください。鮮やかな赤を見つけられたら、それが新鮮さの何よりのサインです。一尾買いに慣れてきたら、えらを抜く下処理にも挑戦してみましょう。ひと手間で、いつもの魚料理がぐっと澄んだ味に変わるはずです。なお、食品の安全性に不安を感じたときや体調に異変があった場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。
※本記事の生態・構造に関する情報は、農林水産省や大学研究機関などの公開情報を参考にしています。最新情報は各公式サイトでご確認ください。
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