スーパーの干物コーナーで、アジやホッケに混じって細長い魚の開きが並んでいるのを見かけたことはありませんか。それがカマスの開きです。値段はアジより少し高いくらいなのに、焼くとふわっと立ち上がる香りと、ほろっとほどける白身の甘さがまるで違う。一度買うとリピートする人が多い干物です。
結論から言うと、カマスの開きがおいしいのは「もともと水分が多い白身魚を、干すことで凝縮させている」からです。生のカマスは水分が72.7g/100gと多く、刺身にすると水っぽく感じる個体もあります。その弱点を、開いて塩水に漬けて干すという工程がまるごと長所に変えてしまう。だからカマスは加工品のほとんどが干物なのです。
この記事では、カマスの開きの正体から、アカカマスとヤマトカマスのどちらが干物向きなのか、旬はいつか、家庭で作るときの塩水濃度と干し時間、そして買ってきた開きを一番おいしく焼く方法まで、数値つきで整理します。栄養データは文部科学省の食品成分データベース、安全性は厚生労働省の公表資料を根拠にしています。
・カマスの開きが「干物の定番」になった理由と、干すとうま味が増える仕組み
・アカカマスとヤマトカマスの見分け方と、干物に向くのはどちらか
・家庭で作るときの塩水濃度8%・漬け時間20〜30分という具体的な数値
・身7:皮3で焼く方法と、冷凍の開きを水っぽくさせないコツ
・生のカマスと干物で変わる栄養数値、保存期間と安全上の注意点
カマスの開きとは何か|「干物の定番」になった3つの理由

カマスの開きは、カマスを背中から開いて内臓とエラを取り、塩水に漬けてから乾燥させた加工品です。スズキ目サバ亜目カマス科の魚で、日本の市場に出回るのは主にアカカマスとヤマトカマスの2種。どちらも干物との相性がよく、市場魚貝類図鑑によればアカカマスの加工品のほとんどが干物、もしくは煮干しとされています。まずは「なぜカマスはこれほど干物にされるのか」というところから押さえていきましょう。
生のカマスと開きは別の食べ物と考えたほうがいい
同じ魚なのに、生のカマスとカマスの開きでは味の方向性が違います。生のカマスは白身で淡白、身は柔らかく水っぽいと評されることが多い魚です。数値で見ると、日本食品標準成分表(八訂)増補2023年でかます(生)100gの水分は72.7g。魚としては標準的ですが、身の繊維が細かく水分を抱え込みやすいため、刺身にすると「柔らかいけれど味が薄い」と感じる人が出てきます。
ところが開きにすると、この水分が抜けて味が凝縮します。しかも塩が入ることで身がしまり、焼いたときにほろほろとほどける独特の食感が生まれる。生のときは弱点だった「水っぽさ」が、干物にした瞬間に「うま味を濃くできる余白」に変わるわけです。スーパーで生のカマスを見て素通りしていた人でも、開きなら気に入ることがよくあります。
注意したいのは、干物だからといって「日持ちする保存食」と思い込まないこと。市販のカマスの開きは塩分を控えめにした一夜干しタイプが主流で、昔ながらのカチカチに干した保存食とは別物です。パッケージの保存方法をそのまま守るのが安全です。
カマスの加工品が干物に偏るのはなぜか
カマスが干物に加工されやすいのは、身の性質が乾燥という工程にぴったり合うからです。カマスは体長35〜50cm前後、体高が低くて細長い体型をしています。開くと身の厚みが均一な板状になり、乾燥ムラが出にくい。アジのように腹側だけ極端に薄いということがないため、干し上がりの品質が揃いやすいのです。
もう一つの理由は、身に含まれる水分の多さです。水分が多い魚を干すと、重量の減り方が大きいぶん味の濃縮効果もはっきり出ます。とくにヤマトカマスは「ミズカマス(水カマス)」の別名があるほど身に水分が多く、一般社団法人大日本水産会の魚食普及推進センターでも「少し水っぽいので干物がおすすめ」と紹介されています。
加えて、カマスは秋にまとまって水揚げされる魚です。産地に一気に入荷する魚は、生鮮のままでは売り切れません。干物にすれば流通期間を延ばせるうえ付加価値もつく。魚の性質と漁のリズムが噛み合った結果が、いまのカマスの開きだと考えると腑に落ちます。
干すとうま味が増えるのは、ATPがイノシン酸に変わるから
「干すとおいしくなる」は感覚的な話ではなく、成分の変化として説明できます。魚の筋肉にはエネルギー源としてATP(アデノシン三リン酸)が蓄えられていて、死後これが段階的に分解されてイノシン酸になります。イノシン酸はかつお節のうま味成分として知られる物質で、干す工程のあいだにこの分解が進みます。
同時に、たんぱく質分解酵素の働きでたんぱく質が分解され、グルタミン酸をはじめとする遊離アミノ酸が増えます。イノシン酸とグルタミン酸は組み合わさるとうま味を強め合う関係にあるため、干物では「二つのうま味が同時に増える」ことになります。さらに水分が抜けることで、これらの成分の濃度そのものが上がります。
ここで効いてくるのが温度です。低温で乾燥させた場合、イノシン酸などの減少が少なく、遊離アミノ酸の総量が増えやすいとされています。家庭で作るなら真夏の炎天下にさらすより、風通しのよい日陰や、涼しい時季の夜干しのほうが理にかなっているということです。
開き干し・丸干し・煮干し|売り場で見かける3タイプの違い
カマスの加工品には主に3タイプあります。開き干しは背中(または腹)から開いて平らにして干したもので、スーパーで「カマスの開き」として売られているのはこれです。1尾を開いているぶん火が通りやすく、骨も外しやすいので食べやすさで言えばいちばんです。
丸干しは開かずに、内臓を抜くか抜かないまま丸のまま干したもの。身の水分が抜けきらないぶんしっとりしていて、内臓のほろ苦さを含んだ濃い味になります。産地の直売所や小ぶりのカマスで見かけるタイプです。煮干しは小型のカマスを煮てから乾燥させたもので、こちらは食べるというより出汁を取る素材。カマスの煮干しは上品な甘みのある出汁が引けます。
選び方の目安として、焼いてそのまま主菜にするなら開き干し、酒の肴やご飯のお供にするなら丸干し、汁物や煮物の出汁を変えたいなら煮干し、と用途で分けると失敗しません。同じ「カマスの干物」という言葉でも中身がまったく違うので、パッケージの表示を確認してから買うのがおすすめです。
カマスの開きは、身の水分が多いという弱点を「干して濃縮する」ことで長所に変えた加工品です。市場魚貝類図鑑でもアカカマスの加工品のほとんどは干物か煮干しとされ、最も一般的なのが開いて乾したもの。生のカマスが淡白に感じられた人ほど、開きで印象が変わります。
アカカマスとヤマトカマス、干物に向くのはどっち?
売り場で「カマスの開き」と書かれていても、原材料名を見るとアカカマスだったりヤマトカマスだったりします。この2種は見た目も味も、そして値段も違います。ここを知っているだけで、干物選びの精度が一段上がります。
体色とウロコの大きさで一発で見分けられる
アカカマスは体全体が赤みを帯びた黄褐色で、ウロコが大きめです。標準和名はアカカマス、学名はSphyraena pinguis。市場では「本カマス」と呼ばれ、カマス類のなかで最も評価が高い種類です。全長は40cm前後になり、相模湾では体長50cm前後の個体も揚がります。
一方のヤマトカマスは体全体が黒っぽく、青みがかって見えます。学名はSphyraena japonica、別名ミズカマス(水カマス)。ウロコは小さめで、全長は35cm前後とアカカマスよりやや小ぶりです。専門的な見分け方としては、ヤマトカマスは体側に斑紋がなく、背びれの位置に対して腹びれのほうがやや後方から始まるという違いがあります。
干物になってしまうと体色は判断しにくくなりますが、開きの状態でも手がかりは残っています。ウロコの跡が粗く、身に黄色みが差しているならアカカマス。皮が青黒く、全体に一回り小ぶりならヤマトカマスの可能性が高い。迷ったら原材料表示を見るのがいちばん確実です。カマスの種類そのものをもう少し詳しく知りたい方は、こちらもどうぞ。

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実は、水っぽいヤマトカマスのほうが干物では化ける
意外と知られていないのですが、干物の世界では「格下」とされるヤマトカマスのほうが評価されることがあります。生食ではアカカマスに軍配が上がるのに、干物になると逆転が起きるのです。
理由は単純で、ヤマトカマスは身の水分が多いぶん、干したときの濃縮率が高いから。水分を抜くという工程は、水分が多い素材ほど劇的に働きます。ミズカマスという別名は生食での弱点を指した呼び名ですが、干物という調理法においてはそれがそのまま伸びしろになる。魚食普及推進センターがヤマトカマスに干物をすすめているのも、この性質を踏まえてのことです。
だからスーパーで「ヤマトカマスの開き」を見つけて、アカカマスより安いからと敬遠する必要はありません。むしろ干物として買うなら、値段が控えめなヤマトカマスは狙い目です。逆に刺身用にカマスを一尾買うなら、皮に近い部分にうま味があるアカカマスを選ぶ。用途で使い分けるのが賢い買い方です。
アカカマスの開きが高いのには理由がある
とはいえ、アカカマスの開きが高値で取引されるのにも根拠があります。まず身に脂がのりやすいこと。市場魚貝類図鑑によればアカカマスは寒い時季のほうが脂があり、とくに3月から5月にかけて脂が乗るとされています。脂がのった個体を開いて干すと、焼いたときに皮目からじゅわりと脂が出て、香りの立ち方が変わります。
次にサイズです。全長40cm前後、大型なら50cm近くになるアカカマスは、開いたときの見栄えが違います。干物は「一尾で一人前」が基本なので、大きさはそのまま満足度に直結します。ヤマトカマスの35cm前後と比べると、皿に載せたときの印象がひとまわり違ってきます。
ただし、大きければ必ずおいしいわけではありません。脂ののりは季節と個体差に左右されるため、サイズだけで判断すると外すこともあります。干物を選ぶときは、身の表面が乾きすぎておらず、しっとりとした光沢があるものを選ぶと当たりが多くなります。
2種の違いを一覧で比較する
| 比較項目 | アカカマス(本カマス) | ヤマトカマス(ミズカマス) |
|---|---|---|
| 学名 | Sphyraena pinguis | Sphyraena japonica |
| 体色 | 赤みを帯びた黄褐色 | 全体に黒っぽい・青みがかる |
| ウロコ | 大きめ | 小さめ |
| 大きさ | 40cm前後(50cm前後の個体も) | 35cm前後 |
| 旬 | 9月頃〜5月頃(3〜5月に脂) | 初夏〜秋(9〜11月が中心) |
| 主な産地 | 愛媛・神奈川・熊本・長崎・富山湾 | 神奈川・千葉 |
| 向いている食べ方 | 刺身・塩焼き・開き干し | 開き干し・丸干し |
データの出典は市場魚貝類図鑑および一般社団法人大日本水産会 魚食普及推進センターです。産地は年によって変動するため、店頭表示を優先してください。
| 分類 | スズキ目サバ亜目カマス科カマス属 |
| 旬 | 9月頃〜5月頃(3〜5月に脂がのる) |
| 大きさ | 全長40cm前後(相模湾では50cm前後も) |
| 生息域 | 北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海・太平洋沿岸、瀬戸内海、屋久島、奄美大島、沖縄島ほか。サンゴ礁域を除く比較的浅場、大型は水深100m前後 |
| 味の特徴 | 白身で淡白、身は柔らかい。皮目にうま味が強い |
| おすすめ調理法 | 開き干し・塩焼き・炙り刺身 |
旬はいつ?月別に見るカマスの買い時と産地

干物は年間を通して売られていますが、原料となるカマスには明確な旬があります。旬の時季に水揚げされた個体を加工した開きは、脂ののりも身の厚みも違う。ここでは月単位で買い時を整理します。
アカカマスの旬は9月から5月|脂がのるのは寒い時季
市場魚貝類図鑑によれば、アカカマスの旬は9月くらいから5月くらいまで。そして「寒い時季の方が脂がある」「特に3、4月から5月に脂が乗っている」とされています。つまり秋口から出回りはじめ、冬を越えて春先にピークを迎えるという流れです。
一方で旬の魚介百科では、旬を「秋から初冬あたりまでと、活発に捕食し産卵に向けて栄養を蓄える春」としています。二つの情報源に共通しているのは「春に脂がのる」という点です。カマスは秋の魚というイメージが強いのですが、脂を求めるなら春先を狙うほうが当たりやすいと言えます。
ここで注意したいのが、干物と鮮魚で「旬」の意味合いが少し変わることです。脂が多い個体は干物にすると香りが立ちますが、脂が酸化しやすくもなります。だから干物用としては、脂が乗りすぎていない秋のカマスを好む加工業者もいます。春の脂ののった開きを見つけたら、買ってから早めに焼くのが正解です。
ヤマトカマスは立秋から秋にまとまって出回る
ヤマトカマスの旬は初夏から秋で、相模湾では9月〜11月が旬の時季とされています。市場魚貝類図鑑には「立秋(8月初旬)から秋にかけてまとまって入荷」という記述があり、夏の終わりから一気に量が出る魚だとわかります。
この「まとまって入荷する」という性質こそが、ヤマトカマスが干物に回される最大の理由です。短期間に大量に揚がる魚は、生鮮のまま売り切るのが難しい。開いて塩水に漬けて干すという加工を挟むことで、産地は流通期間を稼ぎ、消費者は秋の味を長く楽しめるようになります。
買い物の目安としては、9月から11月にかけては干物売り場でヤマトカマスの開きが増え、価格も落ち着きます。この時期に多めに買って冷凍しておく、という手も使えます。ただし冷凍にも適切な期間があるので、後述する保存の項目を確認してください。
産地は西日本から関東まで|表示を見るクセをつける
アカカマスの主な産地は愛媛県、神奈川県、熊本県などで、長崎県や富山湾も知られた産地です。関東以南、主に西日本各地で多く漁獲されており、東北以南の太平洋沿岸、新潟県あたりより南の日本海沿岸、瀬戸内海が漁場になります。ヤマトカマスは神奈川県、千葉県が主な産地です。
産地表示を見るクセをつけると、干物選びが面白くなります。同じ「カマスの開き」でも、九州産と相模湾産では原料の魚種が違う可能性がある。また輸入原料を国内で加工した製品もあるので、原材料名と原産地表示の両方を確認すると中身が見えてきます。
もう一点。干物は「原料の産地」と「加工地」が別に表示されることがあります。「静岡県加工」と大きく書かれていても、原料は別の海域ということは珍しくありません。どちらが良い悪いという話ではなく、味の傾向を予測する材料として見ておくと選びやすくなります。
| 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ | △ | ○ | ○ | ○ | ○ |
◎=最旬(もっとも美味しい時期) ○=美味しい △=出回るが旬ではない ※ヤマトカマス(ミズカマス)は9月〜11月が中心
カマスの開きの作り方|背開きから干し上げまでの手順
釣りで釣ったカマスや、鮮魚売り場で一尾買いしたカマスを、家庭で開きにすることができます。特別な道具はいりません。必要なのは包丁、塩、水、そして風通しのよい場所だけ。ここでは塩水濃度と時間を数値で示しながら手順を追います。
用意するもの|塩は分量を測る、これが分かれ目
準備するのは、カマス(何尾でも)、塩、水、ボウルまたはバット、キッチンペーパー、そして干し網です。干し網は釣具店やホームセンターで売られている折りたたみ式のもので十分。虫や鳥を防げるうえ、両面から風が当たるので乾きが均一になります。
ここでいちばん大事なのは、塩を目分量にしないことです。Honda釣り倶楽部が紹介している干物の手順では、約8%の塩水に20〜30分間浸すとされています。水500mlなら塩40g。キッチンスケールで測れば、次に作るときも同じ味を再現できます。目分量だと毎回味がぶれて、「前はおいしかったのに」となりがちです。
下ごしらえで見落としがちなのが、カマスの歯です。カマスは口の中に鋭い歯が並んでいる魚食性の魚で、さばくときに手を切ることがあります。頭を持つときは口の中に指を入れず、エラぶたのあたりをつかむようにしてください。軍手を片手にはめておくと安心です。
背開きの包丁の入れ方|頭を左、背中を手前に
まずウロコを取ります。尾から頭に向かって包丁の背でこそげ取ると、カマスの細かいウロコが落ちます。アカカマスはウロコが大きめなので、しっかり取っておかないと焼いたときに口に残ります。
次に背開きです。頭を左、背中を手前に置き、背びれのすぐ上あたりに包丁の先を当てて、中骨に沿って尾に向かって切り進めます。このとき包丁を寝かせすぎず、中骨の上を滑らせる感覚を保つのがコツ。頭は割って左右に開き、内臓とエラを取り除きます。干物用の開き方には片袖開きという方法もあり、こちらは片側の身だけを開いて反対側は中骨を残す形です。
開いたあとの洗いが、味を左右します。背骨に沿って走っている血合い(腎臓)をしっかりかき出して、流水で洗い流してください。ここに血が残っていると、干している間に酸化して生臭さの原因になります。歯ブラシや竹串の先を使うと取りやすいです。洗い終わったらキッチンペーパーで水気を拭き取ります。
塩水8%に20〜30分|「立て塩」が失敗しにくい理由
塩の当て方には、塩を直接ふりかける「振り塩」と、塩水に漬ける「立て塩」の2通りがあります。家庭で干物を作るなら、立て塩をおすすめします。理由は、塩が身全体に均一に入るからです。振り塩は塩の粒が当たった場所だけ濃くなりやすく、厚みのある部分と薄い部分でムラが出ます。
濃度と時間の目安は、約8%の塩水に20〜30分。好みで8〜10%の範囲、漬け時間を長めにするといった調整も可能です。しっかり味をつけたい場合は、8%塩水に30分漬けたあと水気を拭き、キッチンペーパーに包んで冷蔵庫で一晩置く方法もあります。この場合は冷蔵庫の乾燥を利用して水分を抜きながら、塩を身に浸透させることになります。
ここでの失敗例を一つ。塩を計量せず「これくらいかな」で入れた結果、しょっぱすぎて食べきれない開きができてしまうことがあります。原因は塩分濃度が10%を大きく超えていたこと。対策はシンプルで、スケールで測ることに尽きます。もし塩辛く仕上がってしまったら、焼く前に薄い塩水(1〜2%)に10分ほど浸す「迎え塩」で塩気を抜くとリカバリーできます。真水に浸すとうま味まで流れ出るので、必ず塩水を使ってください。
干す時間の見極め|「触ってベタつかない」が合図
干し時間は、風通しのよい場所で数時間が目安です。Honda釣り倶楽部の手順では、網製の干物器を使って風通しのよい場所で数時間干すと生干しができるとされています。ただし「何時間」という数字よりも、表面の状態で判断するほうが確実です。
見極めの合図は、身の表面を指で触ってベタつかなくなること。乾いた膜が張ったような状態になれば干し上がりです。逆に、指に身が付いてくるようならまだ水分が残っています。カラカラに乾かす必要はありません。一夜干しは中がしっとりしているのが持ち味なので、表面が乾いた時点で切り上げます。
干す環境も重要です。直射日光の当たる場所は温度が上がりすぎて脂が酸化しやすく、うま味成分も減りやすくなります。風通しのよい日陰か、気温が下がる夕方から夜にかけて干すのが向いています。夏場の日中に外で干すのは、温度管理の面でも衛生面でもすすめられません。気温が高い時季は、キッチンペーパーで包んで冷蔵庫の中で乾かす方法に切り替えるのが安全です。
焼き方で味が変わる|身7:皮3の法則を覚える
せっかく良い開きを買っても、焼き方でパサついたら台無しです。干物には焼き方の定石があり、それを知っているかどうかで仕上がりがはっきり変わります。カマスの開きは身が繊細なぶん、この差が出やすい魚です。
身から焼くのが基本|時間配分は身7:皮3
干物は身側から焼き始めるのが基本です。焼き時間の目安は身7:皮3の割合。たとえば全体で10分焼くなら、身側を7分、返して皮側を3分という配分になります。遠火の強火が理想とされていますが、家庭のグリルなら中火で距離を取るイメージで問題ありません。
なぜ身から焼くのかというと、身側の水分を先に飛ばして表面を固めるためです。皮から焼くと身の水分が下に落ちきらず、ひっくり返したときに身が網にくっついて崩れやすくなります。カマスの開きは身が柔らかいので、この順番を守るだけで形よく焼けます。
もう一つのコツは、焼く前に室温に少し戻すこと。冷蔵庫から出したての冷たい状態で焼くと、中まで火が通る前に表面が焦げます。ただし常温に長時間置くのは衛生上おすすめできないので、焼く直前に10分程度で十分です。
グリル・フライパン・トースターの使い分け
魚焼きグリルがあるなら、それがいちばん干物に向いています。上下から熱が当たり、余分な脂が落ちるので香ばしく仕上がります。片面グリルの場合は身側を7割の時間、返して皮側を3割の時間で焼きます。
フライパンで焼くなら、クッキングシートを敷くと身が張り付きません。蓋をせずに身側を弱火〜中火で5〜7分焼き、裏返してから蓋をしてさらに5〜7分蒸し焼きにする方法が紹介されています。蓋をするタイミングを後半にすることで、身側は香ばしく、皮側はふっくらと仕上がります。
オーブントースターは手軽ですが、脂が落ちて煙が出やすいのが難点。アルミホイルを敷き、端を立てて脂受けにすると掃除が楽になります。ただしホイルで完全に包むと蒸し焼きになって香ばしさが出ないので、上は開けておくのがポイントです。どの器具でも共通するのは「焼きすぎない」こと。カマスの開きは身が薄いので、火を入れすぎるとパサつきます。
冷凍の開きは解凍しないで焼く
冷凍したカマスの開きを焼くとき、多くの人がやってしまう失敗があります。前の晩から常温に出しておいたり、電子レンジで解凍したりして、ドリップ(解凍時に出る水分)が大量に出て身が水っぽくパサパサになるというパターンです。原因は、解凍の過程で細胞が壊れてうま味成分が流れ出てしまうこと。
対策は「解凍しない」の一択です。冷凍した干物をふっくら焼き上げるコツは解凍しないことで、凍った状態のまま焼くのがおすすめとされています。凍ったまま焼くと、身の内部の水分が蒸気になって内側から火を通すため、しっとり仕上がります。焼き時間は生の状態より少し長めに取り、弱めの火でじっくり進めてください。
もし急いで解凍する必要がある場合は、冷蔵庫に移して低温でゆっくり戻すのが被害の少ない方法です。常温放置は温度が上がるぶん、次の項目で触れるヒスタミンの観点からも避けたいところ。冷凍する際は1枚ずつラップで包んでおくと、必要なぶんだけ取り出せて扱いやすくなります。
焼き上がりのサインと、おいしい食べ方
焼き上がりの目安は、身の表面にうっすら焼き色がつき、身と骨の間から白い身がふっくら浮いてくること。皮側は少し焦げ目がついたくらいが香ばしくなります。串を刺して透明な汁が出れば火は通っています。
食べるときは、背びれ側から箸を入れて中骨に沿って身を外していくと、きれいに食べられます。カマスは小骨が少なめで身離れがよいので、干物のなかでは食べやすい部類です。大根おろしとすだち、または醤油を数滴。塩気がすでに入っているので、醤油はかけすぎないほうがカマス本来の甘みが立ちます。
季節で合わせ方を変えるのも楽しいところです。春の脂がのった開きは、大根おろしでさっぱりと。秋のヤマトカマスの開きは、うま味が濃いので温かいご飯とお茶漬けにするとよく合います。冬なら焼いた身をほぐして、日本酒を注いだ骨酒にするという食べ方もあります。
栄養データで見る|生のカマスと干物で変わる数値
「干物は塩分が高い」というイメージがありますが、実際どれくらい違うのでしょうか。ここは推測ではなく、文部科学省の食品成分データベースの数値で確認します。カマスの開き自体は成分表に収載されていないため、生のかますと、同じ開き干しであるまあじの数値を並べて傾向を読み取ります。
生のかます100gの栄養|ビタミンDが11.0μgと多い
日本食品標準成分表(八訂)増補2023年によると、かます(生)可食部100gあたりの数値は、エネルギー137kcal、水分72.7g、たんぱく質18.9g、脂質7.2g、炭水化物0.1gです。たんぱく質が20g近くあるのに対して脂質は7.2gと、青魚に比べれば脂は控えめ。白身魚らしいバランスです。
注目したいのはビタミンDで、11.0μg/100gという値が入っています。ビタミンDはカルシウムの吸収に関わる栄養素で、魚に多く含まれることで知られています。ビタミンB12は2.3μg、ナイアシンは4.5mg、ビタミンB6は0.31mg、ビタミンB2は0.14mg。ミネラルではカリウム320mg、リン140mg、カルシウム41mgが記載されています。
そしてナトリウムは120mg、食塩相当量は0.3g。これが「生の状態」の基準値です。塩を当てる前のカマスには、ほとんど塩分が入っていないことがわかります。ここを覚えておくと、次の干物との比較が読みやすくなります。
干すと塩分はどれくらい上がるのか
同じ成分表で、まあじの開き干し(生)100gを見ると、エネルギー150kcal、水分68.4g、たんぱく質20.2g、脂質8.8g、ナトリウム670mg、食塩相当量1.7g、カリウム310mg、カルシウム36mgとなっています。生のかますと比べると、水分が減ってたんぱく質と脂質が濃縮され、食塩相当量が0.3gから1.7gへと大きく上がっているのが読み取れます。
これは魚種が違う比較なので厳密なものではありませんが、「開き干しにすると塩分が上がり、たんぱく質と脂質が濃縮される」という傾向は共通しています。カマスの開き1枚が可食部で80〜100g程度だとすると、塩分は1.4〜1.7g前後になる計算です。1日の食塩摂取目標量と照らすと、決して無視できない量です。
だからといって干物を避ける必要はありません。大根おろしを添える、汁物の塩分を減らす、醤油をかけないといった組み合わせで全体の塩分は調整できます。むしろ「干物は塩分がある」と知ったうえで献立を組めるほうが、無理なく続けられます。
・エネルギー:かます生 137kcal / まあじ開き干し 150kcal
・水分:72.7g / 68.4g
・たんぱく質:18.9g / 20.2g
・脂質:7.2g / 8.8g
・ナトリウム:120mg / 670mg
・食塩相当量:0.3g / 1.7g
※日本食品標準成分表(八訂)増補2023年より作成。カマスの開き自体は成分表に未収載のため、同じ開き干しのまあじで傾向を比較しています
公式データは文部科学省 食品成分データベースで誰でも確認できます。干物の塩分については、塩さんまのような一塩加工品と比べてみると位置づけがつかみやすくなります。

スーパーの鮮魚コーナーで「塩さんま」と書かれたパックを見て、生さんまと何が違うのか、そのまま焼いていいのか、塩抜きは必要なのか——ふと迷った経験はありませんか。…
DHA940mg・EPA340mg|白身なのに脂肪酸は入っている
カマスは白身魚ですが、DHAとEPAは含まれています。ある水産関連の情報源では、100gあたりEPA 340mg、DHA 940mgという値が示されています。この数値は複数ソースで裏を取れていないため参考値として扱いますが、白身魚としては少なくない量です。
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、魚の脂に含まれるn-3系脂肪酸です。青魚に多いことで知られていますが、カマスのような白身にも一定量が含まれています。ただし脂肪酸の量は季節と個体差で変動するため、「カマスなら常にこの値」と考えるのは正確ではありません。脂ののる春先の個体と、産卵後の個体では中身が違います。
覚えておきたいのは、これらの脂肪酸は熱に弱く酸化しやすいという点です。干物は表面積が広いぶん酸化が進みやすく、長く置くほど脂の風味が落ちていきます。買ったら早めに食べる、冷凍するならラップで包んで空気を遮断する。この基本を守るのが、栄養面でも味の面でも合理的です。
用途別の選び方|刺身か、干物か、出汁か
ここまでの数値を踏まえて、カマスの使い分けを整理しておきます。刺身で食べるなら、皮目にうま味があるアカカマスを選び、皮を炙る焼き霜造りにするのが定番です。身が柔らかいので、洗ったあと乾いたキッチンペーパーに包んで20分ほど冷蔵庫で寝かせると身が締まります。
干物にするなら、水分の多いヤマトカマスがコストパフォーマンスで優れます。塩水8%・20〜30分という基本の配合で作れば、素材の水っぽさがそのままうま味の濃さに変わります。焼いて主菜にするなら開き干し、ご飯のお供や酒の肴なら丸干しという選び分けもできます。
出汁を取りたいなら、カマスの煮干しという選択肢もあります。カツオやイワシの煮干しに比べて上品でクセの少ない出汁が引けるので、白身魚を使った汁物や、素材の味を邪魔したくない椀物に向いています。カマスの刺身についてもう少し知りたい方は、さばき方から鮮度の見極めまでこちらでまとめています。

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安全においしく食べるための保存と注意点
干物は「干してあるから安心」という食品ではありません。とくに家庭で作る一夜干しは水分が残っているぶん、生鮮食品に近い扱いが必要です。ここは公的機関の情報をもとに、押さえるべき点を整理します。
冷蔵は3〜4日、冷凍は1週間〜10日が目安
干物専門店の案内によれば、干物の保存期間は冷蔵で3〜4日ほど、冷凍で1週間〜10日ほどが目安とされています。これはあくまで一般的な目安で、製品ごとに設定された消費期限・賞味期限が優先されます。市販品はパッケージの表示に従ってください。
冷凍する場合は、1枚ずつラップで包むのが基本です。まとめて袋に入れると、取り出すときに剥がれず全部解凍するはめになります。ラップで包んだうえで冷凍用保存袋に入れ、空気を抜いておくと酸化を遅らせられます。家庭で作った一夜干しも、その日に食べない分はすぐ冷凍に回すのが安全です。
解凍のタイミングで気をつけたいのは、常温に長時間放置しないこと。前述のとおり凍ったまま焼くのが味の面でも有利ですが、衛生面でも常温放置を避けられるという利点があります。時間に余裕があるときは冷蔵庫内で解凍してください。
アニサキス|干物では加熱で処理するのが基本
カマスに限らず、海産魚にはアニサキスが寄生している可能性があります。厚生労働省の公表資料によれば、アニサキスは中心温度−20℃以下で24時間以上の冷凍、または60℃以上で1分以上の加熱によって死滅するとされています。EUでは生食用の魚介類に対して−35℃で15時間以上、または−20℃で24時間以上の冷凍が義務付けられています。
干物として食べる場合、しっかり焼けばこの加熱条件は満たされます。干物を焼くときに中心部まで火を通すのは、味の面だけでなく安全面でも意味があるということです。生干しを半生の状態で食べるといった食べ方は避けたほうがよいでしょう。
家庭で開きを作る場合、注意点があります。一般的な家庭用冷凍庫では、食材の中心が凍るまでに時間がかかるため、庫内に入れてからの時間だけで「24時間冷凍した」と判断すると条件を満たしていない場合があります。冷凍による処理をあてにするより、加熱でしっかり火を通すほうが家庭では現実的です。また、開くときに内臓を見て、白い糸状のものがないか目視で確認する習慣をつけてください。詳細は厚生労働省のアニサキス食中毒予防リーフレットで確認できます。
ヒスタミンは加熱しても分解されない
もう一つ知っておきたいのがヒスタミンです。厚生労働省が公開しているHACCP手引書では、ヒスタミンはサバ・カツオ・イワシ・サワラなどに含まれ、アレルギー様食中毒を起こすと説明されています。予防策として、魚を常温に放置せず速やかに冷蔵庫で保管すること、エラや内臓を除去したあと洗浄して速やかに冷却保存することが挙げられています。
ヒスタミンの厄介なところは、加熱しても分解されないという点です。焼けば大丈夫、という理屈が通用しません。だからこそ、生の魚を手に入れた時点からの温度管理が重要になります。水産加工の現場でも、10℃以上に温度が上がらないよう迅速に処理することが求められています。
ここでもう一つの失敗例を挙げます。釣ってきたカマスをクーラーボックスに入れたものの、氷が溶けたまま数時間車内に置いてしまい、帰宅後に開きにしたところ食べたときに舌がピリピリした、というケースです。原因は温度管理の不足。対策は、釣った直後にエラと内臓を取って氷締めにし、クーラーボックスの氷を切らさないことです。魚の口の中や喉に赤みが強く出ていたり、舌に刺激を感じたりした場合は食べるのをやめてください。体調に不安がある場合や症状が出た場合は、医療機関を受診してください。
・気温の高い時季に屋外で長時間干すのは避け、冷蔵庫での乾燥に切り替える
・干し網を使い、虫や鳥が触れないようにする
・原料の魚は入手した時点から冷蔵・氷締めで温度管理する(ヒスタミンは加熱しても分解されない)
・食べるときは中心部までしっかり加熱する
・その日に食べない分は1枚ずつラップで包んで冷凍する
・体調に不安がある場合や症状が出た場合は、医療機関を受診してください
干している間に気をつける3つのこと
実際に家庭で干していると、思わぬところでつまずきます。一つ目は虫です。屋外で開けっぱなしにして干すと、ハエなどが寄ってきます。折りたたみ式の干し網は網目で虫を防げるので、屋外で干すなら必須の道具だと考えてください。
二つ目は鳥や猫です。ベランダで干していたら、いつの間にか一枚減っているという話は珍しくありません。干し網を使う、目の届く場所で干す、洗濯物と同じ感覚で放置しない。この3点で防げます。
三つ目は気温です。目安として、気温が25℃を超えるような日の屋外での長時間乾燥は避けたほうがよいでしょう。温度が上がると細菌が増えやすく、脂の酸化も進みます。夏場に開きを作りたいなら、塩水に漬けたあとキッチンペーパーに包んで冷蔵庫に一晩入れる方法が向いています。冷蔵庫内は低温で乾燥しているため、乾燥と塩の浸透が同時に進みます。低温乾燥のほうがうま味成分が残りやすいという点でも、理にかなった方法です。
まとめ|カマスの開きは「水っぽさ」を味方につけた干物
カマスの開きは、生で食べたときに「水っぽい」と評価されがちな魚を、干すという工程でまるごと長所に変えた干物です。身の水分が抜けてうま味成分が濃縮され、たんぱく質分解酵素の働きでアミノ酸が増え、ATPがイノシン酸に変わる。この3つが同時に進むから、焼いたときにあの香りと甘さが出てきます。
種類で言えば、アカカマスは黄褐色でウロコが大きく全長40cm前後、刺身でも干物でも通用する本命。ヤマトカマスは黒っぽくてウロコが小さく35cm前後、水分が多いぶん干物にすると化けるタイプです。売り場では原材料表示を見て、どちらなのかを確かめてから選んでみてください。旬はアカカマスが9月〜5月で脂は3〜5月、ヤマトカマスが9月〜11月。この時期は原料の質が上がります。
自分で作るなら、数値を守るだけで再現性が出ます。背開きにして血合いをしっかり洗い、約8%の塩水(水500mlに塩40g)に20〜30分。水気を拭いて干し網に並べ、風通しのよい場所で数時間。表面がベタつかなくなったら完成です。気温の高い時季は冷蔵庫で乾かす方法に切り替えてください。
焼くときは身側から。身7:皮3の時間配分で、冷凍品は解凍せず凍ったまま火にかける。この2つだけでも仕上がりが変わります。そして安全面では、中心部までしっかり加熱すること、原料の魚を常温に放置しないこと。ヒスタミンは加熱しても分解されないので、温度管理は買った瞬間から始まります。
まずは次の買い物で、干物コーナーのカマスの開きを手に取って原材料表示を見てみてください。アカカマスかヤマトカマスか、産地はどこか。それがわかるだけで、家に帰ってから焼く一枚の味わい方が変わります。慣れてきたら、鮮魚売り場で一尾買いして自分で開いてみる。塩水を測るところから始めれば、思っているより手前で「うまい」に届きます。
※本記事の栄養成分値は文部科学省「食品成分データベース(日本食品標準成分表2020年版〈八訂〉増補2023年)」、安全に関する記述は厚生労働省の公表資料に基づいています。産地・旬・価格は年により変動するため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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